今回は、「種分化」についてのお話しです。
「種」とは何か?
「種分化」を理解するために、まずは「種」の定義を確認しましょう。
「種」=交配して子孫を残せる集団
生物学の世界において、種が同じ=お互いに交配して子孫を残すことができる(生殖能力を持つ子を生むことが出来る)、ということです。
言い換えると、違う種どうしでは、交配しても子孫を残すことができない(生殖能力をもつ子を生むことができない)ということでもあります。
このような種の定義を、生物学的種概念と呼びます。
ロバとウマは同じ種?
「ラバ」という動物を聞いたことがあるかもしれません。
ラバは、ロバとウマを交配させて生まれる動物です。

ロバとウマから、子が生まれるんだね!
…ということは、ロバとウマは同じ種?!
・・・いいえ、残念ながら、ロバとウマは交雑できても、同じ種ではありません。
というのも、交雑して生まれたラバは、その後子を生むことが出来ない(=生殖能力をもたない)からです。
同じ種であるためには、生まれてきた子も生殖能力を持っていなければなりません。
よって、子のラバが生殖能力をもたないロバとウマは、別の種であると言えます。
「種分化」とは?
そもそも「分化」とは、漢字の通り「分かれること」です。
つまり、「種分化」は、「種が分かれること」を意味します。
では、「種が分かれる」とはどういうことか?
種が異なるということは、交配して子孫を残すことができない(生殖能力をもつ子を生むことが出来ない)ということでしたね。
つまり、もともと同じ種だった集団において、何らかの原因で遺伝的に異なる集団が生じて、その集団どうしでは交配しても子孫を残すことが出来なくなってしまう、この現象を「種分化(種が分かれる)」と呼ぶのです。
「種分化」=
同種の集団において、何らかの原因で、交配しても子孫を残すことが出来ない別の集団に分かれること
「種分化」が成立するには?
では、種分化はどのようにして起こるのでしょうか?
種が分かれる大きな流れは、次のように考えられています。
- もともと同じ種の集団がある
- 何らかの原因で遺伝的な交流がない集団に分かれる(隔離)
- 遺伝的な差が蓄積・定着して、集団どうしで交配ができなくなる(または、交配して子ができても、その子は生殖能力をもたなくなる)(生殖的隔離)
ここで重要なのは、種分化が起こるためには、まず遺伝的な交流が断たれること(=隔離)が必要だということ、そして、種分化が起こった=生殖的隔離が起きているということです。
異所的種分化
種分化が起こるシーンとして、まず想像しやすいのは「異所的種分化」でしょう。
「異所的種分化」とは、生息地が分断されることによって遺伝的な交流が断たれ(地理的隔離)、種分化が成立することです。つまり、異なる場所で種分化する、ということですね。
地理的隔離は、例えば新しく海ができてしまって、動植物が集団間を行き来できなくなるケースなどがあります。
同所的種分化
種分化は、かならずしも生息地が分断されることによって起こるものではありません。
生息地が被っていても、遺伝的な交流が断たれて種分化が起こることがあり、これを「同所的種分化」(同じ場所での種分化)といいます。

生息地は被っているのに、遺伝的な交流が起こらないの・・・?
ふつうは、同じ種が同じ場所で生息していれば、遺伝的な交流が起こるように思われます。
しかし実際には、繁殖時期が違う集団が現われたり、生殖器の形が微妙に異なる集団が現われることがあり、その結果、同じ場所に生息しているにも関わらず遺伝的な交流が極めて少なくなることがあるのです。
そうして、長い年月をかけて生殖的隔離が成立し、種分化につながります。これが、同所的種分化です。
まとめ
今回のキーワードです。
「種」
互いに交配して子孫を残すことができる個体の集団
「種分化」
同種の集団において、何らかの原因で、交配しても子孫を残すことが出来ない別の集団に分かれること。
「隔離」
遺伝的な交流が断たれること。
「生殖的隔離」
互いに交配できなくなる、または、交配して生まれた子が生殖能力をもたない状態になることで、遺伝的な交流が断たれること。
種分化=生殖的隔離が起きること、ともいえる。
「地理的隔離」
生息地が分断されることによって、遺伝的な交流が断たれること。
「異所的種分化」
生息地が分断されることによって、種分化が起きること。
「同所的種分化」
生息地は被っているが、地理的要因以外で遺伝的交流が断たれ、種分化が起きること。