今回のキーワード:
自然選択、適応、選択圧、遺伝子頻度
自然選択とは
突然変異によって形質のちがいが生じると、ときに対立遺伝子間で生存の有利・不利に差が出ることがあります。
例えば、鳥のくちばしの形を決める遺伝子Aに変異が生じて通常よりも細長いくちばしをもつ遺伝子aが現れたとします。
そして、この鳥の生息地では、細長いくちばしをもっている方がよりエサを捕るのに適していたとしましょう。
すると、細長いくちばしの遺伝子aを持つ個体の方が、もともとの遺伝子Aを持つ個体よりも栄養状態が良くなり、生存に有利になりますよね。
そして、遺伝子aを持つ個体の方が子孫を多く残すようになり、やがて集団全体における遺伝子aの遺伝子頻度が上昇していくでしょう。
このように、突然変異によって対立遺伝子間で生存の有利・不利に差が出ると、周りの環境に適応してより有利な遺伝子の方が残りやすくなり、遺伝子頻度が変化します。
これを、自然選択といいます。
また、自然選択の原因となる”周りの環境の変化”や”生存に有利・不利の差”のことを、選択圧といったりします。
自然選択による遺伝子頻度の変化
自然選択による遺伝子頻度の変化を、もう少し具体的にみてみましょう。
例えば、対立遺伝子A(a)について、AAの個体が30匹、Aaの個体が20匹の集団があったとします。
このときの遺伝子頻度 \( \small{P} \) は、それぞれ \( \small{P(A)=\frac{30\times2+20}{30\times2+20\times2}=0.8 \ , \ P(a)=\frac{20}{30\times2+20\times2}=0.2} \) ですね。
あるとき、この集団の生息地の環境が変わり、遺伝子aをもたない個体は生き残れなくなってしまいました。AAの個体は全滅し、Aaの個体20匹のみになります。
すると、集団の遺伝子頻度は \( \small{P(A)=\frac{20}{20\times2}=0.5 \ , \ P(a)=\frac{20}{20\times2}=0.5} \) に変化します。
そして、以降この集団では遺伝子aの方が遺伝子Aよりも多く受け継がれていくようになります。
このように、対立遺伝子の間で生存の有利・不利に差が生じることで、周りの環境に合わせて有利な遺伝子が選抜され、遺伝子頻度が変化するのが「自然選択」です。
自然選択がはたらく例
自然選択がはたらく例として、オオシモフリエダシャク(蛾の一種)の「工業暗化」があります。
オオシモフリエダシャクは、もともとは白っぽい色(明色型)をした蛾の一種でした。
オオシモフリエダシャクの生息地域では木の幹に白っぽい地衣類が生えていて、白っぽい体をもつ個体は木の幹に擬態して天敵からの補色を免れるのに適していたのです。
一部の個体は茶色い体(暗色型)をもつものもいましたが、そのような個体は明色型に比べて捕食されやすいので、個体数はとても少数でした。
ところが、一部の地域で工業化が進むと、大気汚染の影響で地衣類が育たなくなって、木の幹が茶色く変化しました。
すると、これまで生存に有利だった明色型の個体は天敵に見つかりやすくなり、逆にこれまで不利だった暗色型の方が木の幹に擬態しやすくなります。
こうして、工業化が進んだ地域では暗色型の個体の割合が増えていきました。
これはまさに、オオシモフリエダシャクが周りの環境に適応して集団の遺伝子頻度が変化した結果であり、自然選択がはっきりと観察された例でもあります。
まとめ
- 自然選択
対立遺伝子間で生存の有利・不利に差が生じると、周りの環境に適応してより有利な遺伝子が選抜され、遺伝子頻度が変化していくこと。
進化の要因の一つ。