今回のキーワード:
遺伝子プール、遺伝子頻度、対立遺伝子、ハーディ・ワインベルグの法則
進化と突然変異の関係
自然界では、個体レベルで偶然DNAの塩基配列や染色体に変化が起こることがあります(突然変異)。こうした突然変異が蓄積して、形質に変化が生じると、やがて種の進化につながっていきます。
しかし、個体レベルに生じたすべての突然変異が、進化につながるわけではありません。突然変異が種の進化につながるためには、
- 突然変異が配偶子に生じて、親から子に伝えられる
- 突然変異が集団内に広がる
- 集団全体の形質が変化する
という段階をふむ必要があります。
1個体に生じた突然変異がどうやって集団内に広がるのか?ということについては、のちの記事で詳しく解説していきます。(遺伝的浮動・自然選択など)
さて、「突然変異が集団内に広がる」を別の言葉に言い換えると、「集団内における新しい遺伝子の割合が増える」ということです。
この、”集団内における遺伝子の割合”について、今回は深堀していきたいと思まいます。
遺伝子プールと遺伝子頻度
”集団内のおける遺伝子の割合”を考えるために、「遺伝子プール」と「遺伝子頻度」の概念を学びましょう。
まず、「遺伝子プール」とは、ある集団内に存在する遺伝子の集合体のことを言います。
例えば、図のようなマウス5匹の集団があったとしましょう。
そして、この集団内の全てのマウスについて、ある遺伝子座の遺伝子型を調査してみると、2匹は「AA」、2匹は「Aa」、1匹は「aa」でした。
この場合、このマウス集団の遺伝子プールの中には、遺伝子Aが6つ、遺伝子aが4つ存在することになります。
そして、この遺伝子プールにおける、注目している対立遺伝子の割合のことを「遺伝子頻度」といいます。
遺伝子頻度の計算
では、先ほど例にした遺伝子プールで、遺伝子頻度を実際に計算してみましょう。
この遺伝子プールには、遺伝子Aとaが合わせて10個あります。
このうち、遺伝子Aは6つなので、遺伝子Aの遺伝子頻度は \( \mathbf{\frac{6}{10} = \small{0.6}}\) となります。
同様に、遺伝子aは4つなので、遺伝子aの遺伝子頻度は \( \mathbf{\frac{4}{10} = \small{0.4}}\) です。
ハーディー・ワインベルグの法則
もし仮に、集団が次のような条件を満たしていれば、その集団における遺伝子頻度は何世代たっても変化しません。
つまり、遺伝子プール内で、偶然現れたり消えたりする遺伝子がなく、交配も完全にランダムであれば、遺伝子頻度は変化しない(常に一定になる)ということです。
(なぜそうなるのか、実際に計算して確かめてみよう!→「ハーディ・ワインベルグの法則」を実際に計算してみよう!)
この現象を、ハーディー・ワインベルグの法則といいます。
実際には、遺伝子頻度は変化する
でも、もしハーディー・ワインベルグの法則が成り立つのであれば、遺伝子頻度が変わらないので、進化も起こらない、ということになってしまいます。
それでも、実際に進化が起こっているのはなぜでしょうか…?
実は、ハーディー・ワインベルグの法則の前提である5つの条件が自然界でそろうことは、滅多にありません。
実際には、突然変異が起こりますし、形質の違いによって有利な遺伝子・不利な遺伝子も出てきます(自然選択)。また、交配も完全には自由交配ではないですし(性選択)、集団の分断や大量死によって固体の数が急減し、遺伝子の頻度が偶然に変わることだってあり得ます(遺伝的浮動)。
このように、自然界では偶然の力によって遺伝子頻度が変わります。これにより、進化が起こっていくのです。
まとめ
- 個体レベルで生じた突然変異が集団内に広がり、定着することで進化が起こる。
- 遺伝子プール
集団内に存在する遺伝子の集合 - 遺伝子頻度
遺伝子プールにおける対立遺伝子の割合 - ハーディ・ワインベルグの法則
5つの条件を満たせば、遺伝子頻度は何世代たっても変化しない(常に一定)。 - 実際の自然界では、ハーディ・ワインベルグの法則は成り立たず遺伝子頻度は変化している。