DNAに保存されている遺伝情報は、どのようにして読み取られ、現れるのか?
今回は、そのしくみについて解説します!
「発現」を学ぶ前の基礎知識
まず、基礎知識として、生体内におけるタンパク質の役割を学びましょう。
生体内で生命活動を行う主役:タンパク質
私たち生物のからだの中で行われる生命活動は、タンパク質が主役となって行われます。
例えば、体内の化学反応を促進する酵素はタンパク質ですし、体内で情報を伝えるホルモンもタンパク質です。
さらに、皮膚などに含まれるコラーゲンも、タンパク質のひとつです。
タンパク質がないと、生物は生命活動を行うことができません。
タンパク質はアミノ酸がつながってできている
タンパク質は、アミノ酸という物質が多数つながってできています。
生体内でタンパク質合成に使われるアミノ酸には、20種類あります。
20種類のアミノ酸は、ペプチド結合という結合で互いに結合し、ポリペプチドという長い一本の鎖をつくります。
このポリペプチドが、きれいに折りたたまれると、正常にはたらくタンパク質になることができます。

タンパク質の性質を決定するのは、アミノ酸の配列(並び順)です。
アミノ酸の並び順によって、
・タンパク質がどんな形におりたたまれるか?
・どのような機能を持つか?
が決まります。
DNAの遺伝情報はタンパク質の設計図
DNAに保存されている遺伝情報は、この生命活動の主役であるタンパク質をつくるための情報です。
つまり、DNAの遺伝情報はタンパク質の設計図であると言えます。
もっと言えば、タンパク質の性質はアミノ酸の配列によって決まるので、
DNAの遺伝情報にはアミノ酸の配列(並び順)の情報が書いてある、とも言えます。

遺伝情報の「発現」とは
DNAの遺伝情報をもとに、タンパク質が合成されることを、遺伝情報の発現といいます。
発現は、次のような流れで行われます。
- DNAの遺伝情報を核の外に伝える(転写)
- 遺伝情報をアミノ酸の配列に置き換える(翻訳)
発現のステップ1:転写
タンパク質の合成は、核の外(細胞質)で行われます。
したがって、タンパク質を合成するためにはまずDNAの遺伝情報を核の外に伝えなければなりません。
しかし、DNAは遺伝情報を保存しているとても大切なものなので、むやみに核の外に出すことはできません。
そこで、DNAの情報(塩基配列)をmRNAという物質にコピーして、核の外にDNAの情報を伝えます。
これを、転写といいます。
※mRNAについて詳しくはこちら!

転写についてより詳しくは、次項「遺伝子の発現②転写」で解説しています!
発現のステップ2:翻訳
mRNAによって核の外にDNAの情報が伝えられると、今度はその情報を読み取ってアミノ酸が並べられ、タンパク質が合成されます。
これを、翻訳といいます。
翻訳には、リボソームとtRNAが関与しています。
※リボソームとtRNAについて詳しくはこちら!
mRNAが核から出てくると、リボソームとtRNAによって、遺伝情報に書いてある通りにアミノ酸が並べられ、結合していきます。
これにより、ポリペプチドが形成され、その後折りたたまれてタンパク質が完成します。

翻訳についてより詳しくは、次次項「遺伝子の発現③翻訳・コドン」で解説しています!
発現の流れ:セントラルドグマ
遺伝情報の発現は、
①DNAの遺伝情報がmRNAに転写され、
②mRNAの塩基配列が翻訳されてタンパク質が合成される
という流れでおこります。
この
DNA →(翻訳)→ mRNA →(転写)→ タンパク質
という遺伝情報の一方向の流れを、セントラルドグマといいます。

「セントラルドグマ」とは、「中心教義」(=絶対的な決まり)という意味です。
つまり、遺伝情報の”絶対的な”流れという意味でこの名がつけられました。
セントラルドグマを提唱したフランシス・クリック(DNAの二重らせん構造を発見したクリックです!)は、当時遺伝情報の流れは一方向的なもので、逆流することはないと考えていました。
しかし実際には、一部のウイルスなどでこの流れを逆流させる酵素などが発見されて、セントラルドグマの例外もあることが分かりました。
とはいえ、このセントラルドグマは遺伝情報の発現の基本的な流れであることには変わりありません。
そのため、今でもこの考えは重要な考えとして残っています!
発現の流れ:まとめ
- 発現
DNAの遺伝情報に基づいて、タンパク質を合成すること - 発現は、転写と翻訳の2段階で行われる
- 転写
DNAの遺伝情報をmRNAに写し取る過程 - 翻訳
リボソームと tRANがmRNAの情報をよみとり、タンパク質を合成する過程 - セントラルドグマ
DNA →(翻訳)→ mRNA →(転写)→ タンパク質
という遺伝情報の一方向の流れ